ベンガルボダイジュはクワ科イチジク属。インドで聖樹とされるのは、ベンガルボダイジュ、ウドンゲノキ(優曇華)、インドボダイジュなどで、いずれもイチジク属の樹木である。インド平原全域でごくふつうに見られるが一風変わった樹木だ。コルカタでもよく見かける。横に伸びた枝から多くの気根を出しているので、すぐそれと分かる。 古代にはその樹下で聖者たちが座し、瞑想に耽っていたという。今も貴重な緑陰を人々に提供している。そこで人々はバザールを開き、あるいは休憩をとっている。店や小屋が寄り添い、人々はベンガルボダイジュと「共に暮らしている」。 12月3日、念願のカルカッタ植物園を訪ねた。入口から15分ほど歩くと森が広がっている。森の頂上部はそれほどデコボコがなく、平たい感じである。この森全体は、たった1株からできているという。勿論世界最大の樹木である。 森に入る。赤褐色の幹が何本も立っている。葉を繁らしている上部に目をやる。枝が幹とTの字になって伸びている。不思議な樹形だ。枝をたどっていくとほかの幹に連なっている。その連なりは全体に及んでいるようで、この森全体が1本の樹木といってよい。 カルカッタ植物園は東インド会社が薬草などのコレクションの目的で造った歴史の古い植物園である。1782年、この植物園の一角に1本のナツメヤシが生えていた。ある日、ベンガルボダイジュの実を食べた鳥がナツメヤシにとまって糞をした。粘っこい糞はその枝にへばりついた。そしてその上で芽生えたのである(Colin Ridsdale『Trees』新樹社)。だからこの樹木は樹齢が250年ほどということになる。 枝に芽生えた実生はわずかその一株から広がり、樹冠(森)の周囲450m、1.5haを覆う。不滅の力を宿しているように見える。このような特徴とその長寿でインドでは不死の象徴となり、また神話、伝説に多く登場する。仏陀もその樹下で瞑想した。インドの国樹である。 枝上で芽生えた実生はどう成長していったのだろうか。枝上で発芽した実生はまもなく細い気根を垂らし始める。気根が地面に着地すると大地に根を伸ばし、土から水や養分を幼木に送り込む。さらに気根はたちまち太くなり、土台になった樹木の幹に網の目のように取り付く。やがて太くなって幹を締め上げる。取り付かれた樹木は生育が衰え、光を遮られ枯死する。ベンガルボダイジュはほかの樹木を土台にして気根を垂らしていく「絞め殺し」植物である。 やがて、枯死した土台の樹木は朽ち果て、締め上げた気根は束になり、くっつきあい、堂々とした幹をつくる。樹高30mに達する。ベンガルボダイジュは地球上最大で最強の樹木といわれ、生命力に溢れる。 枝を横にぐいぐい伸ばし、枝からはさらに気根をずるずると垂らしていく。大地に届くとたちまち根を張り、太くなり、幹となる。そして上部の枝を支える。こうして枝はどんどん大地を覆っていく。1個体の樹木が森のような茂みをつくる。 この巨大な樹木の歴史はあまり明らかではない。園内の説明板によると19世紀の旅行書に記述があるという。1864年と1867年のサイクロンで大きなダメージを受けたという。1925年には菌類の攻撃を受け、基の主幹は枯死し、朽ち果てた。しかし樹勢は衰えず、「森」を広げ現在に至る。 樹皮や葉は様々な薬効があるという。『アタルバ・ベーダ』(紀元前1000年)の頃から薬として用いられてきた。そして、深い緑陰をも提供し続けてきたこの樹木に、誰もあえて鉄の刃物をあてようとはしない。古代からベンガルボダイジュと人は寄り添いあってきたからである。
by seppuka
| 2022-12-18 08:26
| 連載 古樹 巡礼
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