日本の山野には野生のアジサイが多く見られます。野生のアジサイの花序はふつう花序(花の集合)の中心部には小さな両性花が集まってつき、その周囲を装飾花が取り囲みます。すでに、野生のアジサイであるヤマツツジ、ガクアジサイで見てきたとおりです。 夏、那須の谷川沿いにノリウツギ(アジサイ科アジサイ属)が咲いています。サワアジサイ(沢あじさい)とも呼ばれるヤマアジサイと雰囲気が似ています。 那須の茶臼岳の岩場にもノリウツギが進出しています。日光、那須、浅間山周辺など、火山の周辺ではどこでも見られます。別名サビタはアイヌ語です。北海道でも育つアジサイです。 高山にあっても、夏に花を咲かせます。装飾花は白色で、花びら(萼片)は3~5個あります。両性花も白色で、厳しい環境でも美しく咲くアジサイです。 ガクウツギ(アジサイ科アジサイ属)も関東地方以西、九州の山地の沢沿いに生育します。新宿御苑でも見ることができます。花期は早く、5月から6月にかけて咲きます。素朴なアジサイです。 装飾花は最初うっすらと黄緑色を帯びますが、純白となります。花びら(萼片)は3個あるのが特徴です。日本固有種のアジサイらしく、清楚です。野にあるがゆえの美しさです。 低木のアジサイのなかまは、高木の多い森林では生育場所が限られます。そこでイワガラミ(アジサイ科イワガラミ属)はつる性を獲得しました。幹や枝から気根を出して、隣の高木に這い登ります。全体に葉や花をつけるので、光条件はよくなり、花の昆虫に対するアピール度は上がります。 花序としての基本構造はアジサイ属と共通です。ただし装飾花の花びら(萼片)は1枚となりました。それでも白色の装飾花は弱い光もよく反射させます。集合花としての美しさも十分です。 ツルアジサイ(アジサイ科アジサイ属)の花序もアジサイの基本形どおりです。装飾花の花びら(萼片)は3~4個で小花(両性花)の花弁は黄色にしています。集合花としてどのような配色にするか知恵を絞っているように思えます。高木に這い上がり、その幹を覆うようにして葉と花序を広げます。 エゾアジサイ(アジサイ科アジサイ属)は北海道から東北の日本海側に生え、花序はヤマアジサイより全体に大形で、直径はヤマアジサイの2倍近くあります。それでも、ヤマアジサイの寒地適応型のように見えます。装飾花は淡青色から青色で、まことに美しい色合いです。月山山麓でこのアジサイと出会ったときは、非常に幸せな感情が湧きました。その美しさは山にあってこそ。 夏の谷沿いの道を歩いていると、青紫色の亀裂が入り、今にも破裂しそうな大きな丸い球を見かけることがあります。それはタマアジサイ(アジサイ科アジサイ属)の蕾です。苞に包まれ玉状になっています。 そして、玉状の蕾が裂けるように開花していきます。次々と球は裂け、青紫色の花序が四方に盛り上がるように咲いていきます。夏の花らしくエネルギッシュです。 花は、ヤマアジサイやガクアジサイより遅咲きで、淡紫色の小さな両性花の周りに花弁4枚の白色の装飾花が縁どります。一つ一つの小花(両性花)の発色がまことにきれいで、それらが集まることによって輝きます。ここでは、装飾花はここでは添え物のように見えます。 山地には装飾花をつけないアジサイがあります。コアジサイ(ユキノシタ科アジサイ属)です。花序は小さな両性花の集まりです。周りに装飾花はありません・山地の沢沿いの斜面や林縁に生育する日本固有種です。都内では東御苑などで見られます。 小花(両性花)の直径はわずか4ミリ、その中にちゃんと雄しべが10個あり、雌しべを囲んでいます。それぞれの小花どうしは接触することなく、一定の秩序のもとで、開花期を合わせ一斉に咲いています。一つ一つの花は小さく、あまり美しさは感じません。 ところが、数えきれないほどの多くの小花が集まって咲いている様は輝きにみちた美しさがあります。まるで渡り鳥が集団で飛んでいる群れの姿、無数のイワシがボール状に群れをつくり遊泳する姿とも似ています。 装飾花がなくてもこれなら目立ちます。コアジサイは両性花だけで花序を形成しました。 生物の進化の上で、1個体では大した行動はできないが、集まれば集合体として予測や説明できないような新しい特性が生み出されることを「創発」と呼びます。数えきれないほどの小花を咲かせ、昆虫にアピールするコアジサイは、1個体で創発的な行動をしています。コアジサイは装飾花なしで、集合して輝く道を選びました。 装飾花があるガクアジサイの小花(両性花)の集合を見てみましょう。開花している花はいつも一部で、時間をかけて順次咲いていきます。一斉に咲かないので、両性花だけでは目立ちません。そこで昆虫へのアピールが少ないと判断したのでしょう。装飾花を配したのでした。 野生のアジサイは進化の過程で、高度な花模様を展開してきました。集まった小さな両性花の一部は大きな装飾花に変身しました。美しいとも思えないような両性花が集まって一斉に咲くことによって、輝く美しさを獲得しました。 野生のアジサイの美の系譜をたどると、私はその花模様に、「よりよく生きる能力」つまり知性を認めます。様々な環境に適応しています。なによりも、ミツバチのみならず私をも人をも喜ばし、繁栄の道を歩んでいます。
by seppuka
| 2016-06-30 14:19
| 連載 花模様
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