ジャイアント セコイア の故郷はヨセミテ国立公園にある。 8月、サンフランシスコを発って、ヨセミテへ車で飛ばしていく。途中の風景は索漠としたものだった。夏なのに緑がほとんどない。夏のこの時期は乾期にあたり、草原の草は一面の枯れ草色なのだ。こうした風景の中を何時間も走っていくと、果たして山はあるのだろうか、緑はあるのだろうかと思ってしまう。 6~7時間経つと、起伏ある山地を走るようになり、やがて深い森を縫い進むうちに、景色は反転する。劇的に山々が切り立ち、奥行きのある森が大きく広がりを見せる。なんと深い緑だろう。 ヨセミテ国立公園は、アメリカ合衆国カリフォルニア州中央部にある、自然保護を目的とした国立公園である。ヨセミテは第1号の国立公園であるイエローストーン国立公園より指定は遅いが、1890年、国立公園に指定され、自然保護の思想の発展では中心的な役割を果たしてきた。1984年にはユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されている。「文明は何を残すのか」と問い、「それは自然の宝である」という明確な思想がヨセミテに芽生えた。だから、ヨセミテは自然保護運動の聖地とも呼ばれる。 公園全体の約95パーセントは原生地域に指定されている。そそり立つ白い花崗岩の絶壁と渓谷は氷河の流れが削り取ってできた景観である。流れ落ちる多くの巨大な滝、谷や木々の間を流れる渓流。古樹、巨木が荘厳に生の営みを続ける森がある。 マリポサ樹林に入る。ジャイアントセコイアが斜面に林立している。静かに森の気を浴びる感覚になる。感受性を全開して、発信される語りかけに身体全体で感じ入る。 「聖地」とはどういう所なのだろう。その営みが自分を含めた人類の行く先に粛々とした確信をもたらす場。風景に無意識に一体化しつつ、過ぎ去っていた時間すら共有でき、明日に向かって、心が浄化される空間。しかしここでは啓示は神によってなされるのではない。 学名「セコイアデンドロン・ギガンテウム」、ジャイアントセコイアと呼ばれる樹木は何が最もすごいのだろうか。 マリポサのジャイアントセコイアの樹齢は、ほとんどが1000年以上で、推定最高樹齢は3200年。途方もない古樹である。しかしカリフォニアにあるブリッスルコーン松「ビナス・アリスタ」と呼ばれる樹木は、樹齢4600年以上という。 一番樹高が高いジャイアントセコイアは88mである。同じ種類でカリフォルニアの海岸沿いに自生する近隣種のレッドウッドは115mほどになる。樹高も最高ではない。 それでは幹周りが最大なのか。基低直径が最大なのはメキシコに生えるモンテズマ糸杉で15mを越えるという。一番大きなジャイアントセコイアでも基低直径12mほどはあるが。 それでは何が世界一なのか。それは世界で現存する最も巨大な樹木であるということ。総容積が植物の中で最大で、15545立方メートル。その重量は2000トンもの重さになる。 遊歩道に沿って「フォーレン・モナーク」と名づけられた倒木がある。木の中のタンニン酸が菌類やバクテリアを抑えて数世紀もの間、腐食せず倒れているという。根は4.5メートル以上に広がっていて、巨大な大木を支えていた。このモナークに沿って歩くと結構時間が経過する。この木の長さを実感した。しかも巨大である。世界で最も大きな生きものである。 下左の写真の樹木は「クロスビン・ツリー(洗濯ばさみの木)」である。山火事が頻繁に起き、車が通れるほどのトンネルをくり抜いた。下右の写真の樹皮は焼け焦げた形跡があちこちに目立つ。実はこうした傷跡こそ、ジャイアントセコイアがヨセミテの地で生き残れた真実を語っている。 巨大なジャイアントセコイアであるが、その種子は非常に小さく長さは1センチほどである。種子とその成木の大きさを較べてみると、その比は成木に対する地球の大きさと同じになる。5~6センチほどの松ぼっくりに200ほどの種子が含まれている。この種子が発芽できる条件は限られている。山火事である。 ジャイアントセコイアの種子が発芽するのには条件がある。直射日光が当たることや適度な水分が必要なのは勿論だが、大事なことは鉱物土壌が露出していなければならないことである。土壌の表面が落枝や落葉、松ぼっくりなどに覆われていると、小さな種子は発芽できない。乾期に雷が火災を引き起こせば、競合する樹木や低木、草は焼け、地表の落葉などは一掃される。鉱物層には栄養豊富な灰が層をつくる。 ジャイアントセコイアの樹皮は厚さ50センチもあり耐火性がある。火災の熱によって、松ぼっくりは乾燥し、発芽にとって理想的になった苗床にたくさんの種子を落とす。つまり、山火事は営々と続くジャイアントセコイアの歴史の継続を保証する。痕跡はそうした証であった。現在、森林警備隊員らによって、限定された火災が意図的に起こされている。 しかし山火事はジャイアントセコイアの根や幹の基部に大きなダメージを与えるらしい。そのため、水分の供給などが樹冠(樹木のてっぺん)までまわらず、樹冠の枝は枯れる。このため古樹は円錐形にならず円筒形の樹形になる。樹高が最も高くなる樹齢は1800年ほどで、この後、幹は太くなるが背は低くなり、全体的にずんぐりしてくるようである。 カリフォルニア州には7,000種の植物が生えているとされるが、そのうちの20パーセント以上がヨセミテ公園内に見られるという。160種以上の稀少植物の植生地域があり、アメリカグマなどの哺乳類が約100種類、鳥類が200種類以上生息しているという。私の短い滞在期間に出会えた動物を一部紹介しておく。 ヨセミテが聖地である所以は多くの多様な生き物を包み込む、包容力にあるのかもしれない。「共に生きよ!」そうした啓示を与えるのは神ではない。「ジャイアントセコイアの森」である。 しかし、人は森を、時に神と呼ぶ。 参考文献 H.THOMASHARVEI 『THE SEQUOIAS NATIONARL PARK』
by seppuka
| 2023-02-07 07:36
| 連載 古樹 巡礼
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||