1、ヨーロッパ風の夏の色 圧倒的な勢いで土手を覆っていたネズミムギがすっかり枯れ草色になりました。夏の風景としては違和感があります。夏は夏草が生い茂る、それが日本の夏風景です。ネズミムギの原産地、ヨーロパから北西アフリカにかけては、夏は乾燥期で、枯れる草が多く、風景は枯れ草色になります。土手の草はほとんどが外来種で、故郷の夏が乾燥期であるところが多いようです。 一面の「ヨーロッパ風の夏景色」となってしまいました。改めて、いかに土手の植生が異国の草に覆われているか実感できる夏の土手です。 7月下旬、また草刈りがありました。枯れ草が一掃されました。この撹乱を「待っていました」とばかり、「それ!」と、発芽し、茎を伸ばし、葉を広げる草たちの激しい競争が繰り広げられます。 2、エノコログサはエンジン全開! エノコログサはイネ科エノコログサ属で、世界の温帯から暖帯にかけて広く分布しますから、夏は働き時です。高温、高日照の夏を待っていたのです。エノコログサは高性能の光合成システムを茎の中に配置しています。もちろん通常の回路は太陽の光を受ける葉の中にありますが、この高性能システムは二酸化炭素を濃縮して、通常の回路に送り込んでいるそうです。これよって光合成能力は約2倍にまで高められます。エンジン全開で、あっという間に群落をつくり。緑の夏の風景をつくり始めました。 「エノコログサ」の名の由来は「いぬころ草」で、穂の形が子犬の尻尾に似ているからついたのでしょう。ネコジャラシとも呼ばれます。英語ではエノコログサ属の植物を Foxtail grass と呼んでいます。発想が似ていますね。 3、ヒルガオ は待っていた 撹乱を「待ってました」とばかり蔓(つる)を伸ばし始め、撹乱前よりもあちこちにヒルガオの花が目立ち始めました。草刈り時、除草車のロータリーで地表の下がぐるぐるかき回されますから、ヒルガオの地下茎はずたずたに切り裂かれたはずです。しかし、ヒルガオは切断された地下茎ごとに蔓を伸ばし、新しい個体となります。アサガオは発芽するとまず双葉を出し、その後に本葉が出て、ツルが伸ばします。ところがヒルガオは双葉が出たら、本葉をとばして細い蔓を伸ばしていきます。一刻も早く拠りどころになる草に絡ませて、上へ上へと向かいます。 ヒルガオの地下茎は切り裂かれると、以前より、勢力分野を広げていくようです。ヒルガオの種子をほとんど見たことがありません。種子をつくらなくても、不死身の地下茎を四方にのばし、撹乱を待って、次々とクローンの個体を増やしたほうが効率的かなと思われます。 ヒルガオはヒルガオ科ヒルガオ属で、古くから日本に自生していました。遣唐使が大陸からアサガオを持ち帰った以前から親しまれていました。同じなかまのコヒルガオとは区別は難しいのですが、葉の基部の二つに分かれた部分の形が違います。 アレチノギクは負けない アレチノギクはキク科イズハハコ属で南アメリカ原産です。草丈は土手ではせいぜい30cmほどで、同属のオオアレチノギクにくらべ、背が低いのでほかの草に負けてしまったのではないかと思われます。ところが、土手では草地ではなく、コンクリート道の脇のわずかな隙間に転々と生えていて、ほかの草との競争を避けていました。 花と同時に綿毛状の種子を結実させ、風に乗せて旺盛に種子を散布しています。フル生産といった感じで、たくましい。これも夏草の一つの生き方です。 アレチハナガサの花笠舞 アレチハナガサは草丈が1mを超えます。クマツヅラ科クマツヅラ属で南アメリカ原産の帰化植物です。茎の断面は四角形で、直立します。角柱は円柱より風など側面への圧力に耐性が強いのでしょうか、堂々とした伸び方です。 花序の先端付近に花は次々と咲きます。さしたる競争相手はいないようで、年毎に増えているような気がします。今のところは土手で「花笠舞」です メマツヨイグサは夜開く マツヨイグサのなかまはメマツヨイグサ、オオマツヨイグサ、マツヨイグサ、コマツヨイグサがありますが、土手ではメマツヨイグサしか見ていません。高さは1~1.5mあり、アレチハナガサといい勝負です。 マツヨイグサのなかまの花は夕暮れになると咲き出します。そして、朝にはしぼんでしまいます。このなかまは花粉を運んでくれる夜の昆虫・スズメガをパートナーに選びました。競争相手は少ないし、花粉をつけたスズメガが、同じなかまのマツヨイグサを訪れる可能性が高いからでしょう。 黄色い花は光をよく反射します。よく日中、黄色い花を撮影すると、よく色飛びがあります。蝋分の「クチクラ」のせいもあるのでしょうが、うっすらとした月明かりのなかでもよく反射して、スズメガに目立つようにしているのでしょう。視界の悪い夜であっても、匂いでスズメガを誘導しています。 花の筒は非常に細長く、その奥に蜜があります。また花粉は粘着糸によって繋がっています。花のこうした特長はスズメガをパートナーに選んだからにほかなりません。 スズメガのストローは普段は丸くたたんでいますが伸ばせば長く、普通の花なら花に触れることなく吸蜜できます。体表は鱗粉で覆われていて、普通の花粉では付きづらいでしょう。付いたとしても、ホバリングしながら蜜を吸いますから振動で振り落とされます。 花筒が長ければマツヨイグサの不安は一挙に解決されます。スズメガは奥の蜜にストローをやっとのことで伸ばします。花粉のある葯やメシベの柱頭に体が接触することになります。また、粘着糸でゆるく結んだ花粉は、からだにペタッと付くことになります。 マツヨイグサはスズメガを誘惑する夜の花の女王です。 シナガワハギが甘く香る夏 マメ科シナガワハギ属のシナガワハギはユーラシア大陸原産とされています。江戸時代に東京の品川で見出され名があるとのこと。草丈は高くなり、1mを超えた株が土手の上を転々と生えています。夏に黄色い花を穂状につけるので目立ちます。 「スイートクローバー」として知られ、この仲間は甘い香りがあります。桜餅を包むオオシマザクラのあの芳香物質、クマリンを高濃度で含んでいます。香りのいいクマリンですが、その味は苦みがあります。植物が昆虫などに食べられるのを防ぐ目的でつくられているようです。もっとも桜餅の葉を私は食べていますが。 シナガワハギのなかは、窒素など栄養を土壌に供給するため耕作地の土壌にそのまま鋤き込まれる緑肥として使われます。レンゲを土壌に鋤き込むのと同じ理由です。 シナガワハギが甘く香る土手の夏です。 ヤブガラシ ブドウ科ヤブガラシ属のヤブガラシが旺盛に蔓を伸ばしています。ものすごい勢いです。藪を枯らしてしまうほど繁茂して覆ってしまうことから名づけられたのも納得です。地下茎から勢いよく地上茎を伸ばします。強い繁殖力の源はやはり地下茎です。巻きひげで絡みつきながら上っていきます。葉と向き合う巻きひげは、葉の変化したものです。 花は目立ちませんが、開花すると朱色を帯びます。花弁とオシベはすぐに落ちますが、メシベとその子房をつつむ花盤は残ります。花は蜜をよく分泌するので、訪花昆虫も多いようです。 ビンボウカズラという別名があります。このツル植物が繁茂すると樹木が枯れて家が貧乏になるというのです。何といわれようとヤブガラシは今日も蔓を伸ばしていきます。 旺盛な生命力を展開する「つわもの」たち、土手の夏はこうして秋を迎えます。
by seppuka
| 2011-08-18 18:19
| 連載 土手の草花
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