新年明けましておめでとうございます。 新春、寒い日が続きました。皇居を訪れるとお濠の水は凍っていました。白鳥は見当たらず、ユリカモメがすたすた氷の上を歩いていました。 皇居東御苑に行きました。何か寒々とした新春の東御苑です。昨年も季節ごとに何回も訪ねました。今年もなるべく多く観察に訪れたいと思います。定点観察は季節の移り変わりが体感でき、植物の生き方がその生活史に合わせて観ることができます。ちなみに「生活史」とは「植物の四季にわたる生活ぶり」のことで、生活は毎年繰り返すのですが、気候や環境の変化によって思わぬ表情を見せることがあります。 冬とはいえ、入り口周辺に鮮やかな彩りがありました。タチカンツバキです。ツバキ科ツバキ属で、サザンカの園芸品種。カンツバキより樹高が高く、3メートルになります。鮮やかな深紅色の花で、冬の貴重な彩りです。さて、真冬のこの時期、ほかに観るべき樹木の表情はあるのでしょうか。歩を進めましょう。 東御苑の二の丸の雑木林は、木々がすっかり葉を落とし、木枯らしが吹きぬけてきたのでしょう。それでも今日は柔らかい日差しを受けて穏やかな表情です。しかし木々の梢をながめてみると、すでに春を迎える準備を着々と進めている冬芽の姿があります。 キブシはキブシ科キブシ属で低木または小高木で雑木林などに生えます。春早くかんざし状の黄色い花序を垂らします。開花への準備は怠りないようで、花芽が色づいていました。花芽は斜上していますが、開花すると垂れ下がります。花芽をよく見ると、先はとがり、2~4個の皮のようなものにしっかりと覆われています。覆っているのは芽鱗といいます。芽鱗は冬の寒さから花のつぼみを守っています。 コブシは山に春を呼ぶ植物として歌にも歌われます。花芽の冬芽が大きく膨らみ、早春に白い花を咲かせます。 モクレン科モクレン属で、モクレンのなかまは冬芽が厚着で、厚い芽麟の外側をさらにビロードのような熱い毛で覆って、大きく膨らんでいます。冬芽をやさしく撫でると何とも温かい肌触りがします。 リョウブはョウブ科リョウブ属。乾いた落葉樹林内に生えます。樹皮が薄くはがれて幹は滑らかで、生長とともにまだら模様となるので、雑木林では幹を観るだけで識別できます。冬芽は花芽と葉芽が一緒に包まれている混芽(混芽)で、芽鱗は2~3個あるのですが、剥がれやすく、写真のように傘のようになり、裸芽(芽が剝き出しになっている芽)になっていることが多いようです。特徴があるので見分けがつきやすい樹木です。 トチノキはトチノキ科トチノキ属。落葉広葉樹林の重要な構成種の一つです。樹形は堂々としていますが、冬芽も混芽で大きく、立派です。長さ1~4cmもあり、芽鱗は樹脂でべとべとしています。芽鱗は重なり、小さな外側の茶色の芽鱗から内側の緑色まで手厚く芽を保護しています。内側の芽鱗は葉のようで、芽鱗は葉が変化したものと思えます。 雑木林を抜け梅林坂を歩きます。ウメは春の到来を知らせる花で、後一月もすると、次々と開花していくでしょう。ウメは葉が出る前に開花しますから、花芽の成長のほうが葉芽の成長より早いことになります。冬芽を観ると、ウメの花芽は球形で比較的大きく、葉芽は小さな楕円形です。新冬至のウメは最も咲くウメの品種の一つで、薄紅く染まった花芽を見るだけで鼓舞された気持ちになります。 本丸を歩きます。まず冬芽が目立つのはタブノキです。クスノキ科タブノキ属で常緑の高木です。ふつう冬芽は花芽と葉芽が分かれていることが多いようですが、上記したように、トチノキやリョウブは冬芽に花芽と葉の芽が一緒に包まれているものがあり、これを混芽と呼んでいます。芽鱗は赤みを帯び厚そうな多数の瓦重ね状の芽鱗に包まれています。冬芽でも一服の鑑賞に値します。 タブノキの冬芽は混芽と葉芽があります。当然枝先にある混芽のほうが大きく、特にタブノキは目立ちます。葉芽の方は幅が混芽の長さの半分程度で目立ちません。大きく膨らんだ混芽は爆発したかにように開き、葉序と花序が飛び出すように伸びていきます。 ユズリハはこの時期葉柄をますます紅色に染まり、よく目立ちます。ユズリハ科ユズリハ属で、ふつう暖温帯に生育するので、冬は苦手なはずです。観ると枝先にある冬芽(頂芽といいます)は葉芽で花芽ではありません。それでも紅色を帯びています。芽を包む芽鱗は多く重なり、万全の冬対策をしているようにみえます。芽鱗は葉柄が変化したもので、頑丈そうです。冬芽の葉脇の小さな丸い芽があります。これは花芽で、枝先に葉が輪状に真っ先に伸びるユズリハは葉芽の成長を優先しています。 本丸の脇にちょっとしたミヤマシキミの並木があります。ミヤマシキミはミカン科ミヤマシキミ属で、シキミのなかまではありません。常緑の低木で低山の林に生えます。紅い果実は冬に熟すので、寺院などでよく植えられています。果実はまずくあまり鳥に食べられずに長く残ります。おかげで長く鑑賞できます。この時期、花芽も同時に見ることができます。当然ながら、花芽の並びと果実の並び方が同じでおもしろい。生活史のスタートとラストが同居しています。 大手門に向かう坂道でシナマンサクが大きく枝を広げています。シナマンサクはマンサク科マンサク属。中国中部原産の落葉小高木です。冬芽は鱗片に包まれておらず(裸芽)、毛に覆われています。花は早く咲き、見る人を喜ばしてくれます。丹念に蕾を観ると裂け、あのリボン状の花びらが姿を見せ始めていました。平凡ですが、「冬来たりなば春遠からじ」とつぶやいたのでした。 冬は周期を持つ「自然」のワンステージです。生活が途絶えたように見えても生は連続し、繰り返しながら変化する。そんな移ろいを感じさせてくれます。冬は樹木観察の格好のフィールドでもあるのです。
by seppuka
| 2013-01-09 12:10
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