土手のすかんぽ、ジャワ更紗。昼は蛍がねんねする 僕ら小学尋常科。今朝も通って またもどる すかんぽ、すかんぽ、川のふち。夏が来た来た、 ド、レ、ミ、ファ、ソ 作詞 北原白秋 、作曲 山田耕筰 この唱歌は何とも懐かしい。夏を迎える初夏の土手が懐かしい。小学校6年の時、この歌をよく歌っていました。東京下町に生まれ育って、スカンポは知らなかったのに、「すかんぽ、すかんぽ、川のふち。夏が来た来た、ド、レ、ミ、ファ、ソ」とよく口ずさんでいました。歌詞の「小学尋常科」は「小学六年生」になっていました。作詞された当時、通学路の土手にスカンポが並んで咲いていたのでしょう。「スカンポ」はもちろん「スイバ」のことです。この時期、スイバは赤茶色に染まり、ジャワ更紗の紋様に見えたのでしょう。 初夏を迎えた荒川下流、河口近くの土手は草花に充ちています。スカンポことスイバも群をなし、溌剌としています。しかし、土手をよく見ると、私の小学校時代とは打って変わった風景があるのです。例えばこの時期、河口の土手ではヤセウツボが群落をつくります。ヤセウツボはヨーロッパ原産の寄生植物です。土手は今や外来の草花で溢れ、日本でも特異な植生が展開しています。河口近くの土手では私が目にするところ、在来種は草丈の高いスイバ、ギシギシ、ススキなどに限られているようです。草丈の低いカントウタンポポやシロバナタンポポも見かけますが、外来のセイヨウタンポポと交雑していて、区別が難しくなっています。河口の土手は外来の植物でほとんど覆われるようになりました。 今年から一年ぶりで自転車での土手の走りを始め、草花の観察も再開しました。興味深い空間に生きる草々に再び目を凝らします。再開第一回は外来種のなかで奮闘する草丈の高い日本在来種「スイバとギシギシ」を取り上げました。 スイバはこの時期、ほかの草より断然高く茎を伸ばし、たくさんの花をつけています。 スイバはタデ科ギシギシ属で、地下茎から茎を伸ばします。10本以上の茎を伸ばしているのをよく見ます。黄色い地下茎がかなり広い範囲に伸びていることを示しています。 花は4月から咲きます。花期である4月~5月は花をつけた茎が高く、ほかの草より抜きん出ています。雌株と雄株とが別々の雌雄異種です。雌株、雄株がそれぞれ群れなすことが多く、そのほうが効率的に花粉をキャッチできそうです。群れた方が受粉に有利です。 花穂は周囲のほかの草の層の上部に突出しています。風媒花として、草の上部の層の空気の流れ(風)に花粉が乗って飛ばされ、同じくらいの高さにある雌株の雌花に到着する確率が高まります。草丈が高いことが受粉に有利です。 雄株の雄花はオシベが6個。葯がぶら下がり、ちょっとした風でもゆらゆら揺れ、花粉を散らします。雄花は直径わずか直径3ミリです。 雌花は朱紅色です。メシベの先端はブラシ状になっていて、風に乗って飛んでくる花粉をキャッチしやすい構造です。メシベの基部は楕円形の3枚の萼片が縦に合わさり、子房を包んでいます。子房を包む萼は花のころは目立ちませんが、この3枚の萼がだんだん大きくなります。 雌花の開花と果実の形成が同時進行します。下の写真で、左下に雌花、右には大きな果実が見られます。雌花の子房を包んでいた萼3個が翼状に大きく張り出し目立つようになりました。萼が3つそれぞれ張り合わさったようにできていて種子を包んでいます。 果実は赤みを帯び、遠くから見て目立ちます。株全体が「ジャワ更紗」のようになります。 地下茎から直接生える葉(根生葉)は長い柄があります。また茎の上部の葉は短い柄があるか、柄はなく直接葉の基部が茎を抱きます。植物体はシュウ酸を含んでいて、かむと酸っぱい味がします。この酸っぱさが和名となって「スイバ」です。若い葉は食用にされました。昔の人は救荒食にしたのでしょうか。刈り取られず、土手で多く見られたのでしょう。 ギシギシはタデ科ギシギシ属で、スイバのなかまです。 4月初旬、満を持したように、大きな葉(根生葉)が盛り上がってきました。冬、葉は少し赤みを帯びていましたが、緑色で枯れませんでした。ギシギシは大型の多年草で、地下茎は褐色で太く深く地中に伸びています。葉を枯らさなかったのは、葉に水と栄養を供給してきた根と地下茎のおかげでしょう。 5月連休後、あっという間に草丈が1m近くになりました。そして花期、結実期を迎えていました。分枝した茎に多数の淡緑色の花穂をつけています。スイバが全体的に赤みを帯びているのに対し、ギシギシは緑一色です。見るからにたくましく、この時期はほかの草を圧倒しています。次々と茎と葉を伸ばし、草々のなかでは抜群のヴォリュウムを誇ります。 葉は大きく長い柄があり、縁が波状になってよじれ、力強い印象です。ギシギシ類の葉は分厚く縁が波打つ傾向が強く、色が濃く表面には光沢があります。上部の葉はスイバのように茎を抱きません。 初夏、淡緑色の小さな花を輪生状につけます。下の写真で、オシベの基部に白い房状のメシベの柱頭が見えます。となると、ギシギシはスイバと異なり雌雄同種なのです。つまり、一つ一つの花の中に雌と雄が同居しています。6個のオシベがあり、雌の時期らしく、オシベは花粉を出していません。メシベとオシベの成熟期をずらして、自家受粉を避けているようです。 果実は小粒で3稜があり、萼に包まれ、スイバに似ています。ただ、スイバは赤くなるのにギシギシは初め緑色,後に茶褐色になります。最も違うのは、ギシギシは中央に種子のぷっくりとした膨らみがありますが、スイバはありません。 初夏、土手の王者であるスイバとギシギシが全開状態で、君臨しています。しかし種子を早くつくり、いち早く散布しなければなりません。実は5月の草刈りが迫っています。 近年スイバもギシギシも生息域を徐々に狭めています。さまざまな理由が考えられます。最も大きな理由は年4回ある草刈りです。スイバやギシギシはボリュウムがある草ですから、地上部を失うと立ち直るのがたいへんです。草丈の低い草も降参せず、旺盛に生命活動をしています。揃って外来の帰化植物で、悪条件に立ち向かい、地歩を築いています。 「土手のスカンポ」の風景は単なる思い出になるのでしょうか。 いよいよ、新編「土手の草花」が始まりました。毎回、丁寧に土手の草花を見つめ、これまでとは違った視点でお伝えしていきます。どうぞご期待ください。
by seppuka
| 2022-05-05 07:41
| 連載 土手の草花
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Comments(1)
Commented
by
BFWMOM
at 2013-06-30 10:04
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スイバとギシギシ、気になっていた植物です。あまりにどこにでも生えている植物ですがマクロで見ると綺麗で神秘的ですね。
土手道を愛犬と毎日散歩しているのでこのシリーズもとても楽しみです。
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