多くの植物は種子散布の方法を鳥に托しました。空を自由に飛ぶ鳥に種子を運んでもらうのです。鳥たち嗅覚は鈍いのですが、目はききます。そこで、果実を赤くして鳥たちを誘います。色覚がヒトとほぼ同じの鳥に、赤色は特に目立つようです。かくして、秋に俄然、その存在感を示す樹木たちがあります。 新宿御苑のイイギリ(イイギリ科イイギリ属)はふだんあまり目立ちませんが、ブドウのように房状に赤い実をいくつも垂れ下げている姿をみとめると、「そうだ、イイギリだ」と思うのです。 ![]() 高木が所々に生育していて、種子が鳥に運ばれるためか、新宿御苑でもよく生育しています。晩秋から初冬にかけて、真っ赤な実をブドウの房のように枝からぶらさげ、まことに鮮やかです。果実は液果(中身に液をたくさん含む果実)です。たくさんつけるためか、翌年まで残ることがあります。 ![]() モチノキのなかまの花は地味で目立ちませんが、秋になると鮮やかな色で鳥を誘います。一面に赤い実を広げるウメモドキ(モチノキ科モチノキ属)はそうしたモチノキの一員です。 ![]() 晩秋に赤い実をつけ続け、冬景色の中で、その存在感は際立ちます。実はいかにも美味しそうです。試しに食べてみると味はなく、ほとんど栄養はなさそうです。鳥にはあまり人気がないようで、冬になってもたわわに実をつけたままです。おかげで赤い実が冬の風景を長く飾ることになります。おかげで人には庭木として人気があります。 ![]() 冬の風景の中で強烈な存在感を誇るのはクロガネモチ(モチノキ科モチノキ属)でしょう。常緑高木で、暖温帯に生育します。下の写真のクロガネモチは昨年の1月に東御苑で撮影したものです。樹木が赤い実で覆われたままです。 ![]() 今年も実をたくさんつけていました。実を食料として好む鳥の立場でいうと、まずは果実が採餌しやすく、食べやすい大きさであること、栄養があること、美味しいことが考えられます。小鳥が好んで食べるのは 12月頃からです。寒くなるにつれ美味しくなるのでしょう。 ![]() モチノキのなかまは雌の木と雄の木が別々の雌雄異株です。庭園木や街路樹などに植栽されています。雌株には赤い果実がたくさんつくので、雌株の方の価値が断然高いようです。 ![]() ミカン科ミヤマシキミ属のミヤマシキミは高さが1メートルほどの常緑の低木です。クロガネモチと同じく常緑です。実の「赤」は葉の「緑」と補色の関係があり、「コントラス」が最も鮮やか色の組み合わせです。鳥にも人の目にも目立ちます。常緑樹の実が赤くなる理由の一つかもしれません。 ![]() 東御苑の雑木林ゾーンでガマズミ(スイカズラ科ガマズミ属)は冬には葉を落とす落葉樹です。たくさんの赤い実をつけます。実は9~10月に赤くなります。食べてみるとすっぱく、食べられません。鳥も酸味の強さを知っていてか、食べに来ないようです。 ![]() ところが、霜が下りる頃になると水分が抜け甘くなります。冬鳥が渡来して、餌のない冬になるとガマズミの実は食べられます。つまり、夏鳥ではなく冬鳥に実を食べてほしいのでしょうか。北国で見るガマズミは元気で、果実も輝くように実っています。冬鳥が種子を散布してくれれば、生息域は寒い地方に広がります。ガマズミは「北帰行」の志向があるのでしょうか。 ![]() 雑木林でよく見かけるオトコヨウゾメ もガマズミ属です。果実は垂れ下がり、10月に赤く熟します。果実は甘酸っぱく食べられ、果実酒の材料にします。分布域が九州まで及ぶオトコヨウゾメは暖地を好むらしく、夏鳥に食べられた方がいいのかもしれません。 ![]() オトコヨウゾメはなかなか品格を感じる低木です。花は春に咲き、それほど多くない白い小さな花をつけます。花は赤色を帯びることが多く、美しい佇まいです。 ![]() 雑木林の常連ゴンズイ(ミツバウツギ科ゴンズイ属)がこの秋も色彩を楽しませてくれます。紅と黒のツートンカラーの果実で鳥にアピールします。 ![]() 紅く熟し、割れて中から光沢のある黒色の種子がのぞいて、結構美しい。赤い袋状の果実が実り、それがはじけて中にある真っ黒な丸いタネが見えるようになりました。果皮の内側の鮮やかな赤色と光沢のある黒いタネとのコントラストが美しい。秋の輝きです。 ![]() ツートンカラーの果実というと、クサギ(クマツヅラ科クサギ属)があります。葉に独特の臭気がするので「臭い木」と呼ばれますが、花はジャスミンに似た素晴らしい芳香を放ちます。 ![]() 果実はユニークで、5つに裂けた紅色の萼が花弁のようになって、面白い形になります。鮮やかな赤と藍色のツートンカラーは、人に近い色彩感覚をもつ鳥の目にも強烈な印象で飛び込むでしょう。 ![]() 東御苑の草むらを歩くと、ヤブマメ(マメ科ヤブマメ属)が赤い実をつけていることに気づきました。ヤブマメは夏から秋にかけて花を咲かせ、実をつけますが、形の異なる3種類の花をつけます。ふつうに咲く開放花、花が開かないまま種子をつくる閉鎖花、それと土の中で果実を稔らせる地下にできる閉鎖花です。 ![]() クローンではない種子を包んだ赤い実は鳥に食べられて、親元から離れたところに運ばれたいのでしょうか。ともあれ、藪に赤い実を見ると気になるのは鳥だけではありません。 秋の深まりとともに、草花も咲く花は次第に少なくなります。秋の風景を彩るのは花々だけではありません。赤い実は人の心も豊かにさせてくれる季節の贈り物です。
by seppuka
| 2013-11-07 13:54
| 連載 季節の手帳
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Comments(1)
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