9月の草刈り後、あっという間に土手はセイタカアワダチソウ(キク科アキノキリンソウ属)の黄色い花色に覆われていきました。遠目に見ると、秋の風情を感じさせる風景でした。 10月、土手の秋は日増しに深まりました。いつのまにかセイタカアワダチソウの花も盛期を過ぎました。 土手で年々、勢力を広げるセイタカアワダチソウに強敵がいます。クズ(マメ科クズ属)です。セイタカアワダチソウとの死闘は40年ほど前から続いています。セイタカアワダチソウに対抗できるのはクズしかないといわれてきました。 クズの蔓は地上を這い接地部分で発根し、水平方向に広がり、草丈の高い草に巻き付いて上に伸び、光を独り占めにするパワフルな植物です。戦いは未だ決着がついていません。 セイタカアワダチソウは圧倒的な繁殖力を誇ります。地中を横走する大きな地下茎から茎が直立し、草丈は2.5メートルにも達します。しかも地下茎から忌避物質のアレロパシー物質を分泌し、ほかの草の種子の発芽や成長を抑制してしまいます。草丈の高さと相俟って、我が物顔に群落を形成する姿に憎悪感を抱く人達も出てきました。 ある時期に「セイタカアワダチソウの花粉は花粉症の原因となる」といわれていました。しかし、花粉症はスギのような風に乗せて大量に花粉を撒く風媒花の花粉が原因です。セイタカアワダチソウは花粉アレルギーの元凶という濡れ衣で、嫌われる植物になってしまいました。 セイタカアワダチソウの花は花粉をミツバチなどの昆虫によって媒介させる虫媒花です。花が密集し、いかにも花粉を大量に出しそうですが、飛ぶのはわずかです。一つ一つの花は美しく、しかも蜜が採れ重要な蜜源植物です。昆虫がたくさん訪れます。 草刈りが行われない水際では、オギ(イネ科ススキ属)とセイタカアワダチソウとの死闘も繰り広がれています。オギの強力な武器はやはり、太く伸びる地下茎です。土壌では地下茎どうしが絡み合い、勢力争いが演じられているのでしょう。 この時期、土手ではススキの群落のように見えるのはセイバンモロコシ(イネ科モロコシ属)の群落です。 ススキは年数回行われる草刈りで、大きな被害を受けています。ススキは地下茎がないので、株を形成して生育します。1,2回の草刈りには耐えますが、3回以上刈られると、草刈りに強い草に負けてしまいます。セイバンモロコシは地下茎を伸ばしていて、素速く立ち直ります。 地下茎は草刈りでダメージを受けた時もいち早く立ち直る武器になります。地下茎から直接葉を伸ばし、花茎を上に立ち上げます。 セイバンモロコシもやっかいな雑草として嫌われています。穂が出る前はススキに似ています。ところが、横に這う地下茎の節から長い根を出し、 茎は直立して大きな株をつくります。赤い穂は秋の土手のせめてもの彩りとなっています。 セイバンモロコシの一つ一つの小花からブラシ状のメシベが露出しています。風に乗ってきた花粉をキャッチします。イネ科のなかまの花は風媒花です。また風に乗せて種子を散布させます。風がよく吹き通る土手は格好の生息場所です。セイバンモロコシは地下茎を伸ばし、一株だけでも小群落を形成します。やがて小群落どうしが連なり、大群落となります。 初夏に花を咲かせるチガヤ(イネ科チガヤ属)が季節外れの白銀色の花穂をつけています。チガヤも地下茎を持ち、「刈取り草原の代表種」といわれます。草丈が低く、ふつうはススキなどが侵入すると、姿を消してしまいますが、草刈りのあるところでは群落をつくります。 秋に咲き始めた理由はおそらく草刈りでしょう。チガヤの花序は赤紫色の葯と柱頭がのびて赤紫色に見え、イネ科の草として、秋の土手にわずかな彩りを添えています。 チカラシバ(イネ科チカラシバ属)はWikipediaによると「地下茎はごく短く、大きな株を作る」そうです。私は、チカラシバは地下茎を形成しないと思っていました。いずれにしろ、地面にしっかりと根を張るチカラシバは、土手では一株一株が列をつくり一面に群落をつくってはいません。日本人にはなじみのイネ科の植物で、独特の風情があります。 秋は「百花繚乱」の季節です。日本では秋に咲く草花が多く、今でも草原や里にはたくさんの花が咲き誇っています。しかし秋の土手はセイタカアワダチソウの黄色と、彩りのないイネ科の植物に占有されています。 それでも、注意深く歩けば、いつもの秋の草花に出会えます。 秋を代表する野草アキノゲシ(キク科アキノゲシ属)の姿をようやく観ることができました アキノゲシの花が開くのは日中だけで、夜間や雨の日はつぼんだままです。ですから秋晴れの日に咲いています。東南アジア原産です日本には古くから渡来したらしく、なじみのキクです。 ヤナギハナガサ(クマツヅラ科クマツヅラ属)は南アメリカ原産の帰化植物です。土手には世界各地原産の草花が見られます。茎の上部で枝分かれし、たくさんの花を咲かせます。初夏から秋まで枝先に紅紫色の花をつけます。草刈りが応えたか、わずかな花しかつけていません。 ホソバウンラン(ゴマノハグサ科ウンラン属)がイネ科の草に混じって、たった一ヶ所で小さな群落をつくっていました。ヨーロッパからアジアにかけての原産です。鑑賞用として日本にやって来ました。 英語名は Butter-and-eggsで、「バターと卵」です。そんなイメージかなと思います。花は個性的で、花の基部から下に筒状の距を伸ばしています。距には蜜が入っています。 世界各地から日本に帰化した草花たちが、かろうじて土手に咲いている土手の秋です。 土手のあまりの単調な色彩を補うためか、河川敷の数カ所にある花壇にはコスモスが植栽されています。コスモス(キク科コスモス属)はメキシコ原産で、世界中で観賞用に栽培されています。日本にも鑑賞用として導入されました。 コスモスは一年草の草花です。花壇で昨年咲いたコスモスの種が風に乗り、土手斜面に着床。たった一輪花を咲かせました。花壇から抜け出て野生化した植物は逸出植物と呼ばれます。帰化植物の多くは逸出植物です。土手という空間は世界から集まった植物たちの世界です。 「コスモス(cosmos)」は「調和」を持つ世界を意味し、「宇宙」を指す語です。国境や国籍にとらわれず世界を股にかける国際人をコスモポリタンといいます。 コスモスは草花のコスモポリタンです。土手にはたくさんの草花のコスモポリタンに充ちています。 それでも、花壇に咲くたくさんのコスモスより、たった一輪のコスモポリタンに心が和む土手の秋です。
by seppuka
| 2021-10-15 15:13
| 連載 土手の草花
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