小石川植物園に夏の花の観察に出かけました。カノコユリ(ユリ科ユリ属)が今年も咲いていました。オニユリも咲いています。ユリの花は夏の暑さに負けないエネルギッシュな咲き具合です。樹木の花、ムクゲやフヨウなども大輪で、色彩が鮮やかなものが目立ちます。 夏の小石川植物園は多くは緑陰に覆われてはいますが、薬園保存園など日差しが容赦なく降り注ぐところも散在します。暑さ対策、蚊対策をして園内をゆっくりと回ります。すると思いのほか夏の花々に出会うことができます。 日差しの強い標本園で、夏の高原に咲くヒゴダイ(キク科ヒゴダイ属)が咲いています。 一見して変わった花姿です。筒状花に覆われた花序でアザミを思い浮かべますが、頭花全体を支える総苞がありません。丸いボールのような花の集まりはどうも頭花ではありません。調べると1個ずつの小花が頭花で、こうした頭花が集まって球状になって、花序(花の集まり)を形成しているようです。 ラクウショウの森を左に見ながら歩いていくと、前方に歩いているといきなり花に覆われた大木が姿を現し、思わず息をのみ込みました。ヘツカニガキ(アカネ科ヘツカニガキ属)の大木です。九州や四国の南部の山中にわずかに生息するヘツカニガキは絶滅危惧が心配されています。常緑樹林内に生育する。高さ20mほどになる、落葉高木です。 その花を見てまた驚きました。ヒゴダイのように頭花が集まって球状になっているのです。 あのシーボルトが発見したといいますが、不明な部分が多かったといいます。近年、牧野富太郎が大隅半島の辺塚 (佐多岬に近い南大隅町) で発見し、学会誌に発表されました。しかし、なぜ「ニガキ」の名をつけたかは謎でというか理解に苦しみます。この樹木はニガキ科とは全く違うアカネ科です。樹木いっぱいに花を咲かす花模様は圧倒的です。 ヘツカニガキは7月中に花を咲かせるので、夏本番の8月は残念ながら観ることができません。 草の花と樹木の花が似ていることはそれほど珍しいことではないようです。 薬園保存園に咲く夏の花クマツヅラ(クマツヅラ科クマツヅラ属)は茎が直立し、上部で枝分かれし、ヤブ状に生えます。枝先に細長い花序を出し、直径4mmほどの小さな淡紅紫色の花をつけます。 花は花序の下の方から咲いていきます。小さい花をよく見ると、花びらは5に裂け平開し、オシベ4個は花の筒の中にあります。小さい花ながら美しいのです。 クマツヅラはクマツヅラ科の草(草本)ですが、クマツヅラ科の樹木(木本)の花が咲いています。小石川植物園のニンジンボク(クマツヅラ科ハマゴウ属)はセイヨウニンジンボク、タイワンニンジンボクとともに、夏に咲き揃います。目立たないながら、夏の見ものです。 枝先や葉腋から花序を出し、直径1cmに満たない小さな淡紫色の花を多数つけます。花冠は唇形になっていますが、花の雰囲気はクマツヅラに似ています。小さいながら、美しい。 花が大きい方が人はより美しく感じることでしょう。ところが花のもっぱらの関心事は虫をよべるかどうかです。あの厄介者のヤブガラシ(ブドウ科ヤブガラシ属)にはしきりに昆虫が訪花しています。一見、花は緑色を帯び、目立たちません。 夏の盛りの朝、花は開花すると朱色を帯びて緑の中で目立ちます。オシベは午前中に散り落ちますが、メシベとその子房をつつむ花盤が残り、蜜をよく分泌するので、昆虫の来訪も多いようです。写真では、幼虫が密に誘われ上ってきました。昆虫には様々なサイズがあり、吸蜜の方法もいろいろありそうです。 小さなサイズの昆虫を相手にするなら、小さいサイズの花でいいのです。 夏に咲く花は小さいサイズの花も多くあります。標本園の薬草ミシマサイコ(セリ科ミシマサイコ属)も枝先から小型の散形花序をだし、黄色の小さな花をつけています。なかなか美しい造形です。 同じ標本園に生えるメハジキ(シソ科メハジキ属)は小さな目立たない花を夏に咲かせます。紅紫色の花をよく見ると、昆虫が訪れたら、吸蜜しやすいように花は唇状花で立体的。そして、美しい。 林の中でよく見かけるハエドクソウ(ハエドクソウ科ハエドクソウ属)。誰も見向きもしないような目立たない草花です。名は根を煮つめて、ハエ取り紙をつくったことによります。ハエドクソウは唇形花を下から順に咲かせます。 枝先に長い穂状花序をだし、淡紅色を帯びる長さ約6ミリほどの小さな花をつけます。「美は微に宿る」と実感します。上唇の両側に平らな部分があり、吸蜜に来る昆虫に便宜をはかっています。 山地植物栽培場の下にハグロソウ(キツネノマゴ科ハグロソウ属)の群落があります。薄暗い木陰に生える草花です。茎は枝分かれして高さ20~50cm。誰も見向きもしない草むらでしょう。 ハグロソウは枝の先または上部の葉腋に花柄を出し、その先に紅紫色の小さな花をつけます。花は2唇形で、下唇のほうが幅は広いようです。オシベは2個しかありません。その真ん中にメシベが1本あります。シンプルな花模様ですが、これぞ夏の花という感じもしてきました。 夏の大きく派手な花を楽しみながらも、小さくも美しい花も観賞したい。汗を拭き拭き歩いた夏の小石川植物園でした。
by seppuka
| 2023-06-29 08:05
| 連載 花模様
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