標高が2000メートルを超える頃、キンコウカ(ユリ科キンコウカ属)の群が目に飛び込んできました。キンコウカは高山の湿原でよく群落をつくります。これまで歩いてきた蛇紋岩地は礫地や岩地が多く、乾燥していましたからキンコウカの出現は意外でした。八方池があるくらいなので当然といえば当然ですが、湿原も八方尾根にはあるのです。そして、湿地を好む高山植物も次第に目にするようになります。 花弁は6枚ですが、星のように見えます。花の色が黄金色をしているので「金光花」と呼ばれます。 タチカメバソウ(ムラサキ科キュウリグサ属)も山地の湿ったところに生えます。白色または淡青紫色の花を咲かせます。ヤマルリソウにそっくりです。八方尾根では高山植物と一緒になって花を咲かせています。亀の甲を思わせる葉の形から名があります。 ウメバチソウ(ユキノシタ科ウメバチソウ属)はふつう湿原に生育しますが、八方尾根でも見かけました。太く白い花糸を持つ雄しべとともに、糸状に裂開した仮雄しべがあり、これがウメの花の雄しべを連想させます。高貴な雰囲気を漂わすウメバチソウに出会えるのはうれしいことです。 標高2000メートルを超えるハイマツの群落が所々で押し寄せています。ハイマツは森林限界より上部で、高山植物と共に生育しますが、この高度でも広がりをみせています。 標高2080メートルの八方ケルン辺りまで登ると眼下に八方池が見えてきます。池の上部は森林が展開しています。蛇紋岩から花崗岩へ、地質の境界線になっているようです。 この辺りの草地や礫地は八方尾根でも最も多様な高山植物がみられます。 さらに唐松岳山頂へ向かう登山道が続きますが、ここからは八方池に降りることにします。頂上を目指す登山者は高山植物に目をやらず、黙々と歩いているように見えます。私はキョロキョロしながら、ゆったりと、歩きます。八方池の周りはとくに高山植物が多いのです。さっそく手前にイワオウギ(マメ科イワオウギ属)の群落がみられます。 イワオウギは礫まじりの草原では群落になります。繁殖力が旺盛で、草地から礫地、岩場まで生え、見ごたえのある大群生があちこちに見られます。 岩場の隙間にはミヤマダイモンジソウ(ユキノシタ科ユキノシタ属)がへばりつくようにして、特徴的な花を咲かせています。 花は白色の5枚の花弁があり、下の2枚は上の3枚より長いので「大文字」の字が名につきました。黄色や赤の花盤に囲まれて2裂した雌しべが伸びています。葯の赤橙色がアクセントになっています。花に個性があり、一度見たら忘れられない花です。 キバナカワラマツバ(アカネ科ヤエムグラ属)も岩にへばりついています。低山帯の草地でも生えますが、バラ科のシモツケソウの赤花との対比もよく、高山で見ると花色が鮮やかに見えます。 カライトソウ(バラ科ワレモコウ属)は本州中部(北アルプス、白山、滋賀県三国山)にしか分布しません。やはり、砂礫地や乾いた草地に自生する日本固有種です。 垂れたシッポのような穂状の花です。花は先端から根元に向かって咲き進むのはワレモコウと同じです。目立つ花びらはありませんが、オシベの花糸が花の外に突き出しています。カライトソウの名前はこのオシベを唐糸(絹)に見立てたものだそうです。光が射すと、花糸が光を透過して輝きます。 クモマミミナグサ(ナデシコ科ミミナグサソ属)は北アルプスにしかない特産種です。砂礫地に生える八方尾根の代表的な高山植物でしょう。 山地で広く見られるミヤマミミナグサの花びらは先が複雑に裂けますが、クモマミミナグサの花びらは3分の1くらいまで2つに裂けます。清楚な白花です。八方尾根の代表的な高山植物の一つです。 テングクワガタ(ゴマノハグサ科クワガタソウ属)は北アルプスなどの山地から亜高山帯に生える草花です。八方尾根には高山帯では見られない花が見られるのが特徴の一つです。だから草花の花が多種に及ぶのでしょう。テングクワガタテングクワガタの小群落 花序は細長く、10~20個の花がつきます。小さな花をよく見ると濃青色の筋が入っています。あまりに美しいので、見入ってしまいます。2本のオシベは長く、外に突き出ます。名の由来でしょう。 高山植物の観察はゆっくりとしたスケジュールで一つ一つの花を丁寧に観ていくことが肝要です。 ミヤマキンバイ(バラ科キジムシロ属)やチングルマ(バラ科チングルマ属)がないと、高山植物を見た感じがしないという人がいるかもしれません。もちろん咲いています。今回はミヤマキンバイをお見せします。群落は見ませんでしたが、岩場にしっかりとしがみついているような花姿を観賞できました。 八方池山荘を出発して2時間半、ゆったりと歩き、じっくりと高山の花を観賞し撮影しました。帰りは下りですから、ふつうに歩けば1時間半で八方池山荘に着けるでしょう。それでも、登りと下りは見える景色が違います。見落とした高山植物を発見するかもしれません。ゆったりとまいります。 次回は 白馬 高山植物ゆったり巡り 第三回 栂池自然園です。
by seppuka
| 2022-06-16 07:54
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