秋空に向かってすっくと立つオオシラビソ(マツ科モミ属)。亜高山帯の雪の多い山地に生育します。八幡平では亜高山帯に生えるシラビソは見られません。本州では最も過酷な自然条件の中で暮らす針葉樹です。高木で、樹高は20メートルに達し、直径が50センチになる大形の樹木です。 トレッキング仲間と八幡平の黒谷地湿原をたどって八幡平頂上を目指します。山道はよく整備されていて、ガイドをつければ初心者でも十分歩けるコースです。折しも10月の紅葉時期と重なり、秋の色彩豊かな森を堪能できます。 周りを見渡せば、厳しい冬を迎える高木のオオシラビソ、そして黄葉したダケカンバが周囲を取り巻いています。亜高山帯の植生に包み込まれ、自然との一体感が感じられます。 ダケカンバ(カバノキ科カバノキ属)は日当たりのよいところに生育する落葉樹で、高木としては亜高山帯に生育する数少ない広葉樹です。八幡平ではダケカンバの純林を観ることができます。 標高1000メートルあたりまで、ミヤマザクラが真っ赤に紅葉しています。思わず足を止めるほど鮮やかな紅葉です。 ナナカマドも亜高山帯の下部まで進出しているようです。山麓でも紅葉していましたが、それより500メートル以上の高地でも紅葉がみられます。 樹木全体が紅くみえますが、その彩りは紅葉だけではないようです。 「紅色」の主役は赤い果実でした。ナナカマド(バラ科ナナカマド属)の実は直径が5~7ミリですが、まとまってつくので、よく目立ちます。おかげで、おかげで長く「紅色」を楽しめます。 亜高山帯の「ナナカマド」といえばウラジロナナカマド(バラ科ナナカマド属)です。葉をすっかり落とし、紅い実が青空バックに映えて見えます。 ウラジロナナカマドの果実は直径8~10ミリで、ナナカマドの実よりやや大きめです。おいしそうですが熟していても苦く、分布域が重なるタカネナナカマドは甘酸っぱく美味しい。 足元をきょろきょろ見ながら歩くと、ウツボグサが目に入りました。ミヤマウツボグサかなと迷いましたが、分布域からタテヤマウツボグサ(シソ科ウツボグサ属)と同定しました。青紫色の花の美しさは格別で、10月に入っても会えるとはうれしい限りです。(岩手日報社『岩手の高山植物百科』) 茶色い葉になったイワカガミ(イワウメ科イワカガミ属)が光を反射させています。「岩鏡」という名の由来かなと思いました。岩場に生育し、てかてかした緑の葉を広げるので「イワカガミ」と思っていましたが、どうでしょうか。 種子を撒き終わったチングルマが「草紅葉」となっています。チングルマ(バラ科チングルマ属)は高山帯に生える落葉性の背の低い樹木ですから、「チングルマの紅葉」というべきでしょう。夏に愛らしい花を岩に覆うように咲かせたチングルマが、秋に草紅葉のようになって私たちを楽しませてくれます。 シラタマノキも名の通り、亜高山帯から高山帯に生える樹木で、高さはせいぜい20センチです。常緑性で紅葉はしませんが、紅葉期には白い果実をつけます。この木が出現するのは亜高山帯のかなり上部に登ってきたことになりそうです。 オオシラビソが壁をつくるように湿原を密に取り囲んでいます。高山帯から亜高山帯の多雪地帯には湿原が多いようです。オオシラビソを主とした亜高山性針葉樹林が広がります。 オオシラビソも豊穣の秋を迎えています。松ぼっくりと呼ばれる球果は長くても10センチほど。濃い青紫色が印象的です。 鱗のような果鱗がらせん状に球果を包んでいます。果鱗の内側には先には種子を抱いた種鱗が2つついています。時間がたつと果鱗が崩れ、種鱗は二つに分かれて風によって散布されます。 種属保存には風が頼りですが、冬は特に強風が吹き荒れ、しかも大雪に埋もれます。葉や枝は特に丈夫でなければなりません。オオシラビソの葉は枝にらせん状にびっしりつき、枝は弾力があり強靭です。雪の重さで折れることはよほどのことがない限りありません。 八幡平頂上が近くになるにつれ、見晴らしがよくなってきます。ということは強風にさらされやすい環境にあるということです。 オオシラビソの樹形は円錐形です。しかし頂上付近の傾斜地で見かけるオオシラビソは枝がすべて一方向に流れて下がり、頂部に枝がなく幹が露出しています。多雪、強風のすさまじさを物語っているようです。 植物の基本情報は『山渓ハンディ図鑑・樹に咲く花』、『山渓ハンディ図鑑・山に咲く花、高山に咲く花』を参考にしています。 次回は秋の八幡平 オオシラビソは挫けない 1をお伝えします。
by seppuka
| 2018-10-26 14:47
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