折々の花 126 秋の七草 7、キキョウ(桔梗) 立秋 初候(およそ八月七日~八月十一日頃) 万葉集の「秋の七草」の歌は最後に「朝貌(あさがお)」を挙げる。ところが、この「アサガオ」は現在の「あさがお」ではないらしい。まずアサガオは中国原産で日本に伝わったのは奈良時代末期から平安初期に遣唐使に伝えられたので、万葉の時代にはなかったという。結論的にはキキョウということになった。キキョウは当時「阿佐加保」と最古の漢和辞典にあるという(『万葉植物事典』北隆館)。確かに万葉の時代では「桔梗」のほうが似合う。 これまで秋の七草として取り上げた花は、すべて夏に咲く花である。キキョウも七月から咲いていいます。花は雄の時期と雌の時期があります。下の写真で左の花は雄の時期、右の花は雄の時期の花です。 咲き始めは雄の時期です。花粉のついた雄しべが雌しべの花柱についたまま囲み、花粉を出します(下写真)。中心部奥にある蜜を吸いに来た昆虫の身体に付着します。 花粉を出し終わった雄しべは花柱から離れて、萎びます。この時、雌しべは機能せず、この時期は中性期です。そして雌の時期、花柱の先が5つに裂けて雌しべ柱頭が現れます。別の花のキキョウの花粉をつけた昆虫が蜜を吸いに来て、雌しべの先端につけます。キキョウは雄と雌の成熟期をずらしタイムラグを設けることにより、自家受粉を避けています。キキョウは賢くも美しい野の花です。 折々の花 127 ミヤマリンドウ 立秋 次候(およそ八月十二日~八月十六日頃) 高山植物のミヤマリンドウは花期が長く、月山では10月の初めに見ることができます。生育地も広く、適応力抜群です。月山では草にまみれず、群生が見られました。 月山の紅葉時期にも岩場で咲いていました。草に隠れていて、注意しないと見過ごしてしまいますが、しっかりと花を咲かせていました。夏に見た時より、花がきりっとした感じを受けました。 高山で見るリンドウの花は平に開きますが、厚みと光沢があり、花の色は濃い印象です。強さを秘めていますが、何とも魅力的なリンドウです。今年は逢えるかなー。 折々の花 128 タテヤマリンドウ 立秋 末候(およそ八月十七日~八月二十二日頃) タテヤマリンドウ(リンドウ科リンドウ属)は高層の湿原に生えます。尾瀬では5月に咲いていました。湿原を覆う枯草の合間に花を咲かせていました。花は超小型で、花径はせいぜい2センチほどです。見つけると嬉しくなります。 立山の室堂の湿原では8月初旬に咲いていました。9月まで咲いているといいます。しみじみ見てみますと、淡い青色が花弁の上部を彩り、下部の白色に斑紋を配しています。底部は黄緑色で、そこから伸びた中心の雌しべの柱頭は純白、取り囲む雄しべの葯はピンク。小さな花にこれほど美しい装いをした野生の花は、そう見られません。 花はふつう淡青色ですがが、立山では白花が多いようです。清楚感あふれる純白の花弁の基部に、繊細な配色がなされ、青花とは違った魅力を醸し出しています。毎年一度は逢いたいリンドウの花です。 折々の花 129 ミヤアキノキリンソウ 処暑 初候(およそ八月二十三日~八月二十七日頃) 高山植物とされるミヤマアキノキリンソウ(キク科アキノキリンソウ属)は山野にふつうに生えるアキノキリンソウと似ています。岩が砕けてできた礫地に生育し、高さは30cmほどで、50cm以上になるアキノキリンソウより小さく小型です。生育環境が厳しいからでしょう。 ところが、頭花はアキノキリンソウより大きく、華やかな印象を受けます。高山では少ない訪花昆虫を引き寄せるため花を装ったのでしょうか。 ミヤマアキノキリンソウは別名をコガネギクといいます。「コガネ」は「黄金」です。高山で輝いています。 折々の花 130 ヌスビトハギ 処暑 次候(およそ八月二十八日~九月一日頃) 初秋の訪れを密かに告げてくれるヌスビトハギ(マメ科ヌスビトハギ属)。小さな淡紅色の可愛らしい花を初秋に咲かせます。長さ4ミリほどですが清楚な花模様です。雄しべと雌しべは下のピンクの竜骨弁の中に入っています。 虫がやってくると外にぴょんと飛び出て虫の腹に花粉がべったりつきます。花粉にまみれた虫なら、その花粉は雌しべの柱頭に付きます。マメ科の蝶形花は飛び出た雄しべと雌しべは竜骨弁の中にもどるものが多いのですが、ヌスビトハギのなかまととコマツナギはそのまま外に出たままになります。 名前の由来は実の形が「盗人が忍び足で、そっと歩いて、ついた足の形に似ているので」といわれます。「こっそりと体につくので盗人のようだ」という説もあります。きっと、あなたもズボンの裾などに付けたことがあるはずです。 折々の花 131 アレチヌスビトハギ 処暑 次候(およそ九月二日~九月六日頃) 土手斜面に紅い帯が出現しました。北アメリカ原産の一年草の帰化植物であるアレチヌスビトハギ(マメ科ヌスビトハギ属)の群生のなせる業です。 茎は1メートル近くまで伸び、一方で地下茎を伸ばして群生します。 花は紅紫色で長さ6~9mmの小さい花ですが、よく見るとちゃんと、マメ科らしい蝶形花を咲かせています。花は夕方にはしぼんで赤くなります。 花はヌスビトハギよりやや大きく、共に秋たくさんの花を咲かせます。花弁にはヌスビトハギにはない黄緑色の模様が基部にあります。優雅なヌスビトハギとはちょっと違って、かわいい感じがします。荒地のような草原でよく見られますから、この秋はぜひご対面ください。 折々の花 132 タコノアシ 白露 初候(およそ九月七日~九月十一日ごろ) この時期、三浦半島の南部にある小網代の森の河口の湿地で、タコノアシ(ベンケイソウ科タコノアシ属)を見ることができます。茎の高さは80センチまで伸びますから湿地で結構目立っています。ところで、「タコノアシ」の名は「蛸(たこ)の足」ですが、変な種名ですね。 ちょうど花期と果期が同時に進行しています。花序につく花は直径5ミリと小さく、花弁は白い花です。びっしりついている果実は蒴果で、なるほどタコノアシの吸盤のように見え、これが名の由来かなとも思いましたが、まだピンときません。 ところが、紅く染めあがっている「タコノアシ」が目に入ってきました。なるほど、これは「蛸の足」です。ベンケイソウのなかまはユニークな草花が多く、面白い。しかし、変な名ですね。 折々の花 133 ススキ 白露 次候(およそ九月十二日~九月十六日ごろ) ススキ(イネ科ススキ属)が目立つ季節となりました。ススキは秋の七草の一つとして親しまれてきました。カヤクサとも呼ばれ、かやぶきの屋根には欠かせない材料として、長く日本人に親しまれてきました。 放射状に延びた多くの長い花序が次第に薄赤く染まり、黄色い粒が目立ってきます。ぐっと近づいて観てください。花穂は花盛りです。 ぶら下がった黄色の雄しべの葯がまず目に入るでしょう。花粉を出し終えていると、今度は白い羽毛状の雌しべの柱頭が伸びています。ほかの株から飛ばされた花粉をキャッチします。小穂には細い長い芒(のぎ)があり、横に折れています。どういう役割を果たしているか分かりません。秋の花見はススキが面白い。 <折々の花 134 ツクシハギ 白露 末候(およそ九月十七日~九月二十一日ごろ) 昨日(16日)に訪れた向島百花園では、「ハギ」と名のつくマメ科の草木が13種も花を咲かせていました。そのうちの一つツクシハギ、小さい花をたくさんつけています。白と紅紫色のまだら模様の花序が枝葉の所々についているように見えます。 旗弁の下と両側につく2個の翼弁全体が紅紫色に染まっています。白い旗弁上部や下に突き出る竜骨弁は白色で、全体的には花色は淡く見えますが、アップで観ると、白と紅紫色のコントラストか鮮やかに浮かび出ます。 マメ科特有の花の形といい、色使いといい、花粉を運んでくれる昆虫を呼ぶための工夫でしょう。その創造力に驚くばかりです。
by seppuka
| 2021-09-16 16:36
| 彩りの七十二候 折々の花
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